水質検査では、目的に応じて微生物、金属、イオン、有機化合物などを測定します。ガスクロマトグラフ(GC)やガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が主に担うのは、水中の揮発性・半揮発性有機化合物の分析です。
対象物質に合う公定法を先に確認し、採水・保存・前処理・検出器を一つの分析系として設計することが、水質分析用装置を選ぶ出発点になります。
GCは、カラム内で成分を分離し、検出器の応答から濃度を求める装置です。水質分野では、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベンゼンなどの揮発性有機化合物(VOC)や、クロロホルムを含むトリハロメタン類の測定に用いられます。
測定対象と濃度範囲が決まっている場合は、GC-FIDやGC-ECDなども候補です。複数成分を選択的に確認したい場合や、夾雑成分の影響を抑えて定性・定量したい場合はGC-MSを検討します。
水道水のカビ臭に関わるジェオスミンや2-メチルイソボルネオールは、低濃度での測定が必要です。農薬類や半揮発性有機化合物では、固相抽出や溶媒抽出で目的成分を濃縮してからGCまたはGC-MSへ導入する方法があります。
対象農薬がGCで測定できるかは、物質ごとの試験法を確認します。検出器の選択性やGCとLCの使い分けは、残留農薬分析の考え方で解説しています。食品試験法を水試料へそのまま適用するものではありません。
ただし、水質検査の全項目をGCで測定できるわけではありません。例えば、金属類は原子吸光法やICP-MS、無機イオンはイオンクロマトグラフィー、PFOS・PFOAはLC-MS/MSなど、物質の性質と規定された検査方法に応じて装置を使い分けます。
同じ水試料でも、水道水、河川・地下水、工場排水では、適用される法令、基準値、採取方法、報告要件が異なります。最初に「何の基準への適合を判定するのか」「自主的な監視なのか」「原因調査なのか」を明確にします。
Sylphのような小型・ポータブル型GCは、現場での即時分析や設置場所を選ばない柔軟性など、従来のラボ設置型GCにはないメリットを多く備えています。一方で導入にあたっては、重量やサイズ、バッテリー駆動の可否など、現場環境に合わせて確認しておきたいポイントも少なくありません。
こうした導入前に押さえておきたい観点を整理しているので、ぜひ参考にしてください。
試料水をバイアルへ入れて密栓し、一定温度で気液平衡にした後、容器上部の気相をGCへ導入する方法です。水そのものを注入口へ入れないため、カラムや検出器への水分・不揮発成分の導入を抑えられます。多数の検体を自動処理しやすい点も特徴です。
気相の分配を利用する方法はヘッドスペースGC、ガスを通して微量成分を捕集・濃縮する方法はパージ・トラップGCで詳しく解説しています。適用する検査方法と必要感度に合わせて使い分けます。
一方、応答は温度、平衡化時間、気液比、塩析、撹拌条件に左右されます。標準試料と検水で条件をそろえ、バイアルの密栓性やキャリーオーバーも確認します。
試料水へ不活性ガスを通気し、追い出した揮発成分を捕集管へ濃縮します。捕集した成分を加熱脱着してGCへ導入するため、低濃度のVOCを高感度に測定しやすい方法です。
装置を選ぶ際は、パージ流量・時間、捕集管の種類、脱着温度、水分除去、ラインの不活性処理を確認します。高濃度試料の後に低濃度試料を測る場合は、流路汚染やキャリーオーバーへの対策も必要です。
| 比較項目 | ヘッドスペース法 | パージ・トラップ法 |
|---|---|---|
| 試料導入 | 平衡後の気相を一定量導入 | 不活性ガスで追い出し、捕集・加熱脱着 |
| 主な利点 | 操作を自動化しやすく、試料マトリックスの導入を抑えやすい | 濃縮効果があり、低濃度成分を測定しやすい |
| 主な注意点 | 温度・時間・塩析などで応答が変わる | 水分、捕集条件、流路汚染、キャリーオーバーを管理する |
| 装置選定 | バイアル数、温調、撹拌、リークチェック | 捕集管、脱着、水分除去、洗浄・ベイク機能 |
VOCは、容器内の空間、移し替え、温度上昇によって失われるおそれがあります。公定法の指定に従い、適切な容器へ泡立てないように採取し、必要な保存処理を行います。採水後は密栓・冷暗所保存とし、規定された時間内に試験します。
採取容器、保存剤、運搬温度、採取日時、試験開始時刻を記録すると、異常値が出た際に採取から分析までを追跡できます。空試験、添加回収、二重測定などの精度管理も分析計画へ組み込みます。
水道水は、水質基準に関する省令に定める項目について、所定の方法で検査します。2026年4月1日施行の水質基準は52項目です。このうち、VOCやトリハロメタン類などでは、項目に応じてパージ・トラップ-GC-MS法、ヘッドスペース-GC-MS法などが用いられます。
基準項目と施行日は、環境省の水質基準項目と基準値で確認できます。GC以外の検査方法を用いる項目も含まれます。
公定法では、装置名だけでなく、採取・保存、試薬、カラム、測定条件、検量線、定量下限、精度管理が定められています。装置カタログに「水質分析対応」と書かれていても、対象項目と採用する公定法に必要な性能を満たすかは個別に確認します。
工場・事業場からの排水には、水質汚濁防止法に基づく排水基準と、自治体の上乗せ基準が関係する場合があります。河川・湖沼・海域・地下水の環境調査では、環境基準や各種の測定方法を確認します。水道水の検査方法をそのまま流用できるとは限りません。
導入前には、対象濃度付近での検量線、定量下限、再現性、添加回収、空試験、妨害成分の影響を評価します。導入後も、標準液、内部標準、ブランク、管理試料を使い、保持時間や感度の変化を監視します。
定量値の妥当性を確認する際は、検量線の作成と校正確認の手順も参照し、採水・前処理を含む検査方法の精度管理と区別して管理します。
公定法への対応は、装置の型式だけで決まるものではありません。前処理を含む分析条件と、担当者が継続できる精度管理手順まで確認して判断します。
主要メーカーの製品を幅広く比較調査したうえで、選定基準を診断チャートに落とし込みました。いくつかの質問に答えるだけで、自社に合った製品にたどり着けます。
※2025年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
水質分析では、GC本体より先に試料導入方法を決めると、必要なシステムを絞り込みやすくなります。ここでは、メーカー公式HPで2026年9月4日時点に現行製品として確認でき、水質中VOCの前処理を検討できる3製品を、パージ・トラップ、高処理数のヘッドスペース、GCとの一体運用という異なる目的から選定しました。
PT9000は、水質試料中の揮発性成分を追い出し、捕集・濃縮してGCまたはGC-MSへ導入するパージ・トラップ濃縮導入装置です。低濃度VOCのルーチン分析を自動化したい検査室で候補になります。
| 装置区分 | パージ・トラップ濃縮導入装置 |
|---|---|
| 主な役割 | 水中VOCの追い出し、捕集、加熱脱着、GCへの導入 |
| 組み合わせ | GCまたはGC-MS |
| 確認項目 | 対象物質、捕集管、水分除去、オートサンプラー、接続機種 |
HS-20 NXシリーズは、密閉バイアル内の気相をGC・GC-MSへ導入するヘッドスペースサンプラです。水中の揮発性成分を連続して測定する場合に、温調や試料導入を自動化する構成を検討できます。
| 装置区分 | ヘッドスペースサンプラ |
|---|---|
| 主な役割 | 密閉バイアルの温調、気相採取、GCへの導入 |
| 対象 | 液体・固体試料中の揮発性成分 |
| 確認項目 | 測定モード、バイアル数、温調範囲、接続するGC・GC-MS |
8697 ヘッドスペースサンプラは、48本のバイアルを搭載でき、XLトレイでは120本に対応する装置です。8890、8860、Intuvo 9000 GCと統合し、バイアルの加熱・振とう、リークチェック、試料導入を自動化できます。
| 装置区分 | ヘッドスペースサンプラ |
|---|---|
| 搭載サンプル数 | 48本、120本(XLトレイ) |
| 対応バイアル | 10mL、20mL、22mL |
| 主な接続GC | 8890、8860、Intuvo 9000 GC |
| 確認項目 | 必要な処理数、冷却の要否、分析法移管、キャリーオーバー |
装置の比較では、標準液だけでなく、実際の原水・浄水・排水を使ったデモ測定を依頼します。対象濃度での回収率、再現性、空試験、キャリーオーバー、1検体当たりの所要時間を確認します。
さらに、採水容器、標準液、捕集管、バイアル、カラム、キャリアガス、保守契約を含む年間費用を整理します。測定項目と公定法を固定してから、必要な前処理とGC・GC-MSを組み合わせると、過不足のない構成を選びやすくなります。
ガスクロマトグラフは、使用シーンによって適した機器が大きく異なります。
使用する環境が違えば必要な検出器・設置条件・運用方法も変わるため、自社に合った製品を選ぶには「どこで・何を測定したいか」を起点に検討することが大切です。
当メディアは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つの使用シーン別におすすめメーカー・製品をまとめています。
ガスクロマトグラフの使用シーンは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つに大きく分かれます。
それぞれ設置条件・必要な精度・運用方法が根本的に異なります。このページでは使用環境ごとに適した装置と選定ポイントを分けて解説します。
引用元:ボールウェーブ公式HP
(https://www.ballwave.jp/products/)
| 対応ガス・成分 | VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 1.9kg |
| サイズ | 133×88×174mm |
引用元:アジレント・テクノロジー公式HP
(https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005473)
| 対応ガス・成分 | 硫黄化合物・窒素化合物・VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 公式HPに記載なし |
| サイズ | 580×510×490mm |
引用元:横河電機公式HP
(https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-and-services/measurement/analyzers/gas-analyzers/process-gas-chromatographs/process-gas-chromatograph-gc8000/#詳細)
| 対応ガス・成分 | 天然ガス・石油精製・石油化学 |
|---|---|
| 重量 | 約100~200kg |
| サイズ | 公式HPに記載なし |
※2026年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
再現性の記載があった製品の中での比較。