固相微小抽出(Solid Phase Microextraction:SPME)法は、表面に抽出相を設けた細いファイバーへ成分を吸着・分配させ、ガスクロマトグラフ(GC)へ導入する前処理法です。溶媒を原則として使わず、抽出と濃縮を同時に行えるため、食品の香気、異臭、水中VOC、材料放散成分の分析に利用されます。
対象成分の極性・分子量・揮発性に合わせて抽出相を選び、温度、時間、撹拌、塩析、脱着条件を固定することが再現性を確保するポイントです。
SPMEファイバーは、金属や石英などの芯材に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ジビニルベンゼン(DVB)、Carboxen、ポリアクリレートなどの抽出相を設けた器具です。保護針からファイバーを露出させ、試料中または密閉バイアルの気相中で対象成分を取り込みます。
抽出後はファイバーをGC注入口へ挿入し、加熱して成分を脱着します。成分はキャリアガスでカラムへ運ばれ、FIDやMSなどで検出されます。SPMEは試料導入法であり、成分の分離と検出にはGC・GC-MSが必要です。
ヘッドスペースSPME(HS-SPME)は、試料上部の気相へファイバーを露出させます。糖、塩、タンパク質、油分などの不揮発成分にファイバーが直接触れないため、香気やVOC分析で使いやすい方法です。
直接浸漬SPME(DI-SPME)は、液体試料へファイバーを浸します。気相へ移りにくい成分も取り込みやすい一方、試料マトリックスによる汚れや競合吸着に注意が必要です。試料の粘度や懸濁物によっては、ろ過や希釈を検討します。
| 比較項目 | HS-SPME | DI-SPME |
|---|---|---|
| ファイバー位置 | 試料上部の気相 | 液体試料中 |
| 主な対象 | 揮発性・半揮発性成分 | 液中へ溶けた成分 |
| 利点 | 不揮発成分がファイバーへ触れにくい | 気相へ移りにくい成分も抽出しやすい |
| 注意点 | 気液分配、温度、密栓性 | 汚れ、競合吸着、ファイバー損傷 |
SPMEでは、試料・気相・抽出相の間で成分が分配されます。平衡に達するまで抽出すれば条件を管理しやすい一方、成分によっては長い時間が必要です。実務では、平衡前でも抽出時間を厳密に固定し、再現性のある条件として運用することがあります。
Sylphのような小型・ポータブル型GCは、現場での即時分析や設置場所を選ばない柔軟性など、従来のラボ設置型GCにはないメリットを多く備えています。一方で導入にあたっては、重量やサイズ、バッテリー駆動の可否など、現場環境に合わせて確認しておきたいポイントも少なくありません。
こうした導入前に押さえておきたい観点を整理しているので、ぜひ参考にしてください。
ファイバーへ取り込まれる量は、抽出相と試料の分配、抽出相の容量、試料濃度に左右されます。適切な抽出相を選べば、微量成分をファイバーへ集め、GCへ導入できます。液液抽出のような大量の有機溶媒や濃縮操作を減らせる点が特徴です。
ただし、SPMEはすべての成分を完全に回収する方法ではありません。抽出条件における分配量を再現し、標準試料や内部標準を用いて定量します。検量線の濃度範囲と実試料のマトリックスをそろえることが重要です。
定量の基礎は検量線と内標準法・校正確認で解説しています。SPMEでは抽出条件による応答の違いを含めて評価します。
少量の試料を密閉バイアルへ入れて測定でき、抽出溶媒を原則として使いません。液液抽出、濃縮、溶媒交換の工程を減らせるため、前処理時間と廃液を抑えやすくなります。密閉状態で抽出するHS-SPMEでは、揮発成分の損失も抑えられます。
温度を上げると成分が気相へ移りやすくなる一方、ファイバーへの分配が低下する場合があります。抽出時間、撹拌、試料量、気相容量、塩析、pHも応答へ影響します。香気分析では、条件が変わると検出される成分の比率が変わり、香り全体の印象をそのまま表すとは限りません。
ファイバーは繰り返し使用できますが、汚れ、高温への長時間曝露、物理的な接触で性能が変化します。新品のコンディショニング、使用回数、ブランク、応答確認、保管方法を手順化します。
高濃度試料の後はキャリーオーバーを確認し、必要に応じてベイクや洗浄を行います。外観に損傷がなくても応答が変わることがあるため、管理用標準の結果を交換判断に使います。
コーヒー、酒類、果実、乳製品、油脂、調味料などの香気成分をHS-SPMEで捕集し、GC-MSで成分候補を調べます。原料、製造条件、保存期間、包装の違いによる変化を比較する用途にも使われます。
異臭の調査では、においの成分分析と官能評価の役割を区別し、捕集ピークと実際のにおいを対応付けます。
香りの感じ方は、成分濃度だけでなく、人が感じるしきい値や成分間の相互作用にも左右されます。GC-MSの結果だけで良否を断定せず、官能評価や標準物質による確認と組み合わせます。
河川水、地下水、排水、飲料水に含まれるVOC、農薬、臭気成分の抽出に利用されます。低分子の揮発性成分にはCarboxenを含む相、極性半揮発性成分にはポリアクリレート系などが候補です。実際の選択は、目的成分、濃度、塩分、有機物量を踏まえて行います。
水試料の採取・保存と必要感度は水質分析におけるGCの使い方も参照してください。
公定法へ利用する場合は、SPMEの使用が認められているかを確認します。研究用途で良好な結果が得られても、規制検査へそのまま適用できるとは限りません。
樹脂ペレット、フィルム、容器、接着剤、日用品をバイアルへ入れ、加熱時に放散する成分をHS-SPME-GC/MSで測定します。異臭原因の絞り込み、材料やロットの比較、保存条件による変化の確認に利用できます。
専用の手動ホルダーを使い、現場の空気や水から成分をファイバーへ捕集して、ラボへ持ち帰る方法もあります。採取後の保存時間、温度、保護針の密閉、輸送ブランクを管理し、輸送中の脱離や汚染を評価します。
空気を吸着管へ採取する方法も比較する場合は、熱脱着GCの捕集・保存・脱着条件を確認します。SPMEファイバーとは捕集媒体と導入条件が異なります。
PDMSは非極性成分、PDMS/DVBは揮発性成分や香気、Carboxenを含む相は低分子ガス・VOC、ポリアクリレートは極性半揮発性成分を検討する際の起点になります。複合相は広い成分範囲を一度に見る用途で候補です。
相の厚さが大きいと保持容量を確保しやすい一方、脱着に時間がかかる場合があります。対象成分の一覧を作り、2~3種類のファイバーで実試料を比較します。
| 抽出相の例 | 検討しやすい対象 | 主な確認点 |
|---|---|---|
| PDMS | 非極性の揮発性・半揮発性成分 | 膜厚、分子量、脱着温度 |
| PDMS/DVB | 揮発性成分、香気、アミン類 | 極性、競合吸着、キャリーオーバー |
| CAR/PDMS | 低分子ガス、低分子VOC | 高濃度試料での飽和、脱着 |
| DVB/CAR/PDMS | 広い範囲の香気・VOC | 成分ごとの応答差、定量範囲 |
| ポリアクリレート | 極性半揮発性成分 | 試料溶媒、温度、洗浄 |
メーカー公式HPで2026年9月4日時点に現行品として確認できるSPME関連製品を調査しました。ファイバーの選択肢、複数の導入法を扱う国内メーカーの自動化、処理数やツール交換を重視した自動化という異なる目的から3製品・シリーズを選定しています。
SupelcoのSPME Fiber Assemblyには、PDMS、PDMS/DVB、Carboxenを含む複合相、ポリアクリレートなどの選択肢があります。対象成分の極性・分子量・揮発性に合わせ、手動用またはオートサンプラー用の仕様を選びます。
| 製品区分 | SPMEファイバー |
|---|---|
| 抽出相の例 | PDMS、PDMS/DVB、CAR/PDMS、DVB/CAR/PDMS、ポリアクリレート |
| 抽出モード | ヘッドスペース、直接浸漬 |
| 確認項目 | 用途、相・膜厚、針径、ホルダー、最高使用温度 |
AOC-6000 Plusは、液体注入、ヘッドスペース、SPMEなど複数の試料導入を構成できる多機能オートサンプラーです。島津製作所のGC-MSと組み合わせ、香気・異臭分析の前処理から測定までを自動化したい場合に候補になります。
| 装置区分 | GC・GC-MS用多機能オートサンプラー |
|---|---|
| 試料導入 | 液体注入、ヘッドスペース、SPMEなど |
| 主な用途 | 香気、異臭、揮発性成分の自動分析 |
| 確認項目 | 対応ツール、バイアル数、接続機種、制御ソフト |
PAL3 Series 2は、液体注入、静的・動的ヘッドスペース、SPMEファイバー、SPME Arrowに対応するGC用オートサンプラーです。RTC構成ではツールを自動交換でき、複数の前処理法や高い試料処理数を必要とするラボで候補になります。
| 装置区分 | GC用多機能オートサンプラー |
|---|---|
| SPME | 従来型ファイバー、SPME Arrow |
| 構成 | RSI、ツール自動交換対応RTC |
| 確認項目 | レール長、トレイ容量、ツール、GC、データシステム |
主要メーカーの製品を幅広く比較調査したうえで、選定基準を診断チャートに落とし込みました。いくつかの質問に答えるだけで、自社に合った製品にたどり着けます。
※2025年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
メソッド開発では、候補ファイバーを同じ試料で比較します。抽出量だけでなく、対象成分のバランス、夾雑成分、飽和、再現性、キャリーオーバーを確認します。高濃度成分がファイバーを占有し、微量成分の抽出を妨げる場合もあります。
処理数が多い場合は、バイアルの温調・撹拌、ファイバー交換、コンディショニング、洗浄、ブランク測定を自動化できるか確認します。ファイバーの識別、使用回数、メソッドとの対応を記録できる装置なら、担当者間のばらつきを抑えやすくなります。
SPMEでは、ファイバーの種類だけでなく、抽出から脱着までの時間と温度を再現できる装置構成が重要です。実試料によるデモと消耗品費を含めて比較しましょう。
ガスクロマトグラフは、使用シーンによって適した機器が大きく異なります。
使用する環境が違えば必要な検出器・設置条件・運用方法も変わるため、自社に合った製品を選ぶには「どこで・何を測定したいか」を起点に検討することが大切です。
当メディアは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つの使用シーン別におすすめメーカー・製品をまとめています。
ガスクロマトグラフの使用シーンは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つに大きく分かれます。
それぞれ設置条件・必要な精度・運用方法が根本的に異なります。このページでは使用環境ごとに適した装置と選定ポイントを分けて解説します。
引用元:ボールウェーブ公式HP
(https://www.ballwave.jp/products/)
| 対応ガス・成分 | VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 1.9kg |
| サイズ | 133×88×174mm |
引用元:アジレント・テクノロジー公式HP
(https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005473)
| 対応ガス・成分 | 硫黄化合物・窒素化合物・VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 公式HPに記載なし |
| サイズ | 580×510×490mm |
引用元:横河電機公式HP
(https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-and-services/measurement/analyzers/gas-analyzers/process-gas-chromatographs/process-gas-chromatograph-gc8000/#詳細)
| 対応ガス・成分 | 天然ガス・石油精製・石油化学 |
|---|---|
| 重量 | 約100~200kg |
| サイズ | 公式HPに記載なし |
※2026年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
再現性の記載があった製品の中での比較。