食品中の残留農薬分析では、農薬の性質と試料マトリックスに応じて、ガスクロマトグラフ(GC)、GC-MS、GC-MS/MS、LC-MS/MSなどを使い分けます。GCが適するのは、測定条件で気化でき、加熱に対して安定な農薬です。
装置を先に選ぶのではなく、対象食品・農薬・基準値に対応する試験法を確認し、抽出・精製・測定・確認を一つの手順として設計することが重要です。
農産物などを均一化し、アセトニトリルなどで農薬を抽出します。塩析、脱水、固相抽出などで水分、色素、脂質、糖、有機酸を除き、GCへ導入できる溶液へ調製します。試料の種類によって妨害成分が異なるため、同じ前処理をすべての食品へ適用できるとは限りません。
注入口ではスプリットレス、PTV、大量注入などを目的に応じて選びます。ライナー、注入口温度、カラム、昇温条件が、熱分解、吸着、ピーク形状、キャリーオーバーへ影響します。
多数の農薬を一度にスクリーニング・定量する一斉試験法は、検体処理を効率化できます。一方、対象化合物の性質、代謝物、食品マトリックスによっては、個別試験法や別の一斉試験法が必要です。分析対象リストを作り、各化合物に適用できる試験法を対応付けます。
公表されているGC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)でも、別表の全化合物を同時に分析できることを保証するものではなく、組み合わせによる分解や干渉を事前に検証するよう示されています。GC/MS/MSの使用も可能とされています。
標準溶液で検量線を作り、試験溶液のピーク面積またはピーク高さから濃度を求めます。食品試料ではマトリックスが応答を増減させることがあるため、マトリックス添加標準や標準添加法が必要になる場合があります。
回帰モデルや内標準法、校正確認の基本は、GCの検量線とキャリブレーションで解説しています。食品マトリックスへの適合は、対象試料で別途確認します。
妥当性確認では、選択性、真度、精度、定量限界、直線性などを評価します。日常分析でも、ブランク、添加試料、管理試料、標準液を測定し、保持時間、感度、回収率の変化を監視します。
Sylphのような小型・ポータブル型GCは、現場での即時分析や設置場所を選ばない柔軟性など、従来のラボ設置型GCにはないメリットを多く備えています。一方で導入にあたっては、重量やサイズ、バッテリー駆動の可否など、現場環境に合わせて確認しておきたいポイントも少なくありません。
こうした導入前に押さえておきたい観点を整理しているので、ぜひ参考にしてください。
食品中の農薬等には、食品衛生法に基づく残留基準が設定されています。基準が定められていない農薬等には一律基準が適用される場合があります。検査計画では、食品と農薬の組み合わせごとに最新の基準値、規制対象となる代謝物・分解物、定義を確認します。
基準値の有無だけでなく、試験対象とする化合物の範囲を確認することが大切です。親化合物だけを測っても、残留物の定義に含まれる代謝物を評価できない場合があります。
公定法・通知試験法では、装置、試薬、抽出・精製、検量線、測定条件、定量限界、留意事項が示されます。カラムや昇温条件だけを転記するのではなく、対象食品と対象化合物、試料量、濃縮倍率、確認方法まで照合します。
公定法と異なる方法を採用する場合は、同等以上の性能を確保できるかを検証し、組織の品質管理手順に沿って記録します。行政検査、受託検査、自主管理では求められる手続きが異なる場合があるため、所管部署や依頼者との確認も必要です。
揮発性・熱安定性がありGCで分離しやすい農薬はGC系で測定します。極性が高い、難揮発性、熱分解しやすい農薬はLC-MS/MSが適する場合があります。幅広い農薬を扱う検査室では、GC-MS/MSとLC-MS/MSを相補的に運用します。
FPD(炎光光度検出器)は、リンや硫黄を含む化合物へ選択的に応答し、有機リン系農薬などの測定に用いられます。NPD(窒素リン検出器)は、窒素・リンを含む化合物へ選択性があります。対象農薬が決まったルーチン分析では、GC単体の選択型検出器が候補になります。
リン・硫黄への応答と運用上の注意点は、FPDの原理と特徴で確認できます。
ECD(電子捕獲型検出器)は、ハロゲンなど電子親和性の高い元素・官能基を持つ化合物へ高感度に応答し、有機塩素系農薬などに用いられます。放射線源を使用する装置では法令、設置、管理、廃棄を確認します。非放射線源式ECDを選べる製品もあります。
線源の種類や必要な管理も含め、ECDの特徴と選定時の注意点を確認してください。
GC-MSは保持時間と質量スペクトルを用いて成分を確認できます。GC-MS/MSは、選択した前駆イオンと生成イオンの組み合わせを測るMRMにより、複雑な食品マトリックス中で多数の既知農薬を微量定量する用途に向きます。
ただし、質量分析計を使えば前処理が不要になるわけではありません。夾雑成分が多いと注入口、カラム、イオン源が汚れ、感度変動や保持時間変化を招きます。精製度と処理時間、装置保守の負担を見ながら前処理を最適化します。
| 検出器・装置 | 主な選択性 | 向く運用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| FPD | リン・硫黄化合物 | 対象農薬が決まった定量 | 元素応答、消炎、直線範囲 |
| NPD | 窒素・リン化合物 | 選択型のルーチン分析 | ビード消耗、応答安定性 |
| ECD | ハロゲンなど電子親和性化合物 | 有機塩素系農薬など | 線源、法令、汚染、直線範囲 |
| GC-MS | 質量スペクトル・選択イオン | 多成分分析、確認 | マトリックス、イオン源保守 |
| GC-MS/MS | MRMトランジション | 複雑試料中の微量多成分定量 | メソッド、標準品、保守費用 |
メーカー公式HPで2026年9月4日時点に現行製品として確認でき、残留農薬の多成分・微量分析へ構成できるトリプル四重極GC-MS/MSを調査しました。その中から、データベース・メソッド構築支援、装置管理、汚染時の保守性という観点を比較できる3製品を選定しています。
GCMS-TQ8050 RXは、微量多成分定量向けのトリプル四重極GC-MSです。残留農薬を含む多数のターゲット成分について、MRMメソッドの構築支援や解析ソフトを含む運用を検討する検査室で候補になります。
| 質量分析方式 | トリプル四重極型 |
|---|---|
| 主な用途 | 微量成分の多成分定量・確認 |
| シリーズ | GCMS-TQ8040 RX、GCMS-TQ8050 RX |
| 確認項目 | 農薬データベース、前処理、保守、既存法の移管 |
7010Dは、MRMを用いるトリプル四重極GC-MS/MSです。食品中の農薬など、多数の既知成分を選択的に定量するシステムを構成でき、MassHunterによるデータ取得・解析を含めて比較できます。
| 質量分析方式 | トリプル四重極型 |
|---|---|
| 質量範囲 | m/z 10~1,050 |
| MRM速度 | 800トランジション/秒 |
| 解析ソフト | MassHunter |
TSQ 9610は、トリプル四重極型のGC-MS/MSです。食品・環境などのターゲット定量で、イオン源の構成、汚染への対応、メソッド・データ処理ソフトを含むシステムを比較する場合に候補になります。
| 質量分析方式 | トリプル四重極型 |
|---|---|
| 主な用途 | 微量ターゲット成分の定量 |
| 選定の観点 | イオン源、装置稼働、データ処理 |
| 確認項目 | 農薬メソッド、前処理、保守契約、国内支援 |
主要メーカーの製品を幅広く比較調査したうえで、選定基準を診断チャートに落とし込みました。いくつかの質問に答えるだけで、自社に合った製品にたどり着けます。
※2025年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
少数の既知農薬を繰り返し測る場合は選択型検出器を持つGC、多数の成分を複雑な食品中で定量する場合はGC-MS/MSが候補です。1日当たりの検体数、1検体の注入回数、再測定率を見積もり、オートサンプラー容量と分析時間を決めます。
残留農薬分析では、ホモジナイザー、遠心機、濃縮装置、固相抽出、天びん、ドラフト、標準品保管設備などが必要です。GC側では、注入口の自動交換やバックフラッシュ、イオン源の清掃性、予備部品、保守対応時間を確認します。
標準液だけでなく、脂質、色素、糖などを含む代表的な実試料でデモを行います。添加回収、再現性、マトリックス効果、夾雑ピーク、連続注入後の感度変化を確認し、前処理時間と装置保守を含む1検体当たりの負担を比較します。
残留農薬分析では、装置感度のカタログ値だけで公定法への適合を判断できません。対象食品と農薬の組み合わせごとに、試験法の妥当性と品質管理手順を確認して導入しましょう。
農薬以外の香気・異臭・油脂も検査する場合は、食品の品質管理におけるGCの用途を参照し、検査対象ごとに分析系を分けて計画します。
ガスクロマトグラフは、使用シーンによって適した機器が大きく異なります。
使用する環境が違えば必要な検出器・設置条件・運用方法も変わるため、自社に合った製品を選ぶには「どこで・何を測定したいか」を起点に検討することが大切です。
当メディアは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つの使用シーン別におすすめメーカー・製品をまとめています。
ガスクロマトグラフの使用シーンは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つに大きく分かれます。
それぞれ設置条件・必要な精度・運用方法が根本的に異なります。このページでは使用環境ごとに適した装置と選定ポイントを分けて解説します。
引用元:ボールウェーブ公式HP
(https://www.ballwave.jp/products/)
| 対応ガス・成分 | VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 1.9kg |
| サイズ | 133×88×174mm |
引用元:アジレント・テクノロジー公式HP
(https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005473)
| 対応ガス・成分 | 硫黄化合物・窒素化合物・VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 公式HPに記載なし |
| サイズ | 580×510×490mm |
引用元:横河電機公式HP
(https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-and-services/measurement/analyzers/gas-analyzers/process-gas-chromatographs/process-gas-chromatograph-gc8000/#詳細)
| 対応ガス・成分 | 天然ガス・石油精製・石油化学 |
|---|---|
| 重量 | 約100~200kg |
| サイズ | 公式HPに記載なし |
※2026年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
再現性の記載があった製品の中での比較。