熱脱着(Thermal Desorption:TD)法は、吸着管などへ捕集した揮発性・半揮発性成分を加熱して放出し、ガスクロマトグラフ(GC)やGC-MSへ導入する方法です。溶媒抽出を介さずに捕集成分を濃縮導入できるため、大気、室内空気、作業環境、材料放散ガス、臭気の分析に利用されます。
吸着剤、捕集量、脱着温度、水分対策を対象成分と試料環境に合わせることが、回収率と再現性を確保するポイントです。
測定対象を含む空気をポンプで吸着管へ通す能動採取、または一定期間設置して拡散で捕集する受動採取を行います。捕集後の吸着管を熱脱着装置へ装着し、不活性ガスを流しながら加熱すると、吸着していた成分が放出されます。
放出された成分をGCへ直接送る構成もありますが、一般には低温または吸着剤を用いたフォーカシングトラップへ一度集めます。トラップを急速加熱して狭いバンドとしてカラムへ導入することで、ピークの広がりを抑えます。
一次脱着では試料管を加熱し、捕集成分をフォーカシングトラップへ移します。二次脱着ではトラップを加熱してGCへ導入します。試料管の流量・温度・時間、トラップ温度、スプリット比、トランスファーライン温度が回収率とピーク形状に影響します。
高濃度試料ではスプリットを用いてカラムへの負荷を抑え、低濃度試料ではスプリットレス条件を検討します。広い濃度範囲を扱う場合は、再捕集、再分析、希釈、内部標準添加などの機能も確認します。
| 比較項目 | 熱脱着法 | 静的ヘッドスペース法 | 溶媒抽出法 |
|---|---|---|---|
| 主な試料 | 大気、吸着管、放散ガス、材料 | 密閉バイアル内の液体・固体 | 固体・液体試料 |
| 濃縮 | 吸着管・トラップで濃縮 | 原則として濃縮しない | 抽出液の濃縮が可能 |
| 溶媒 | 原則不要 | 試料調製で使う場合あり | 必要 |
| 主な注意点 | 破過、水分、脱着効率、熱安定性 | 平衡条件、分配、密栓性 | 溶媒ピーク、回収率、廃液 |
バイアルの気相を採るヘッドスペース法と、ファイバーへ成分を取り込むSPME法では、分配・捕集・脱着の管理条件が異なります。試料と必要感度から使い分けます。
Sylphのような小型・ポータブル型GCは、現場での即時分析や設置場所を選ばない柔軟性など、従来のラボ設置型GCにはないメリットを多く備えています。一方で導入にあたっては、重量やサイズ、バッテリー駆動の可否など、現場環境に合わせて確認しておきたいポイントも少なくありません。
こうした導入前に押さえておきたい観点を整理しているので、ぜひ参考にしてください。
熱脱着法は、ベンゼン、トルエン、キシレンなどのVOC、香気・臭気成分、材料から放散する有機化合物などに用いられます。対象の沸点範囲、極性、濃度に応じ、Tenax系、活性炭系、分子ふるい系などの吸着剤を単独または複層で選びます。
成分に応答する検出器との組み合わせは、VOC分析の方法と装置選定で確認できます。
吸着力が弱すぎると捕集時に成分が管を通り抜ける破過が起こり、強すぎると加熱しても十分に脱着できません。高沸点成分が吸着管の入口側へ残ることや、反応性成分が流路へ吸着することもあるため、回収試験が必要です。
捕集量を増やせば感度を上げやすい一方、吸着剤の保持容量を超えると破過します。濃度が不明な試料では、異なる捕集量の試料管やバックアップ管を用い、回収率を確認します。
高湿度の空気では、水分がトラップへ蓄積してクロマトグラムや質量分析計へ影響する場合があります。疎水性吸着剤、乾燥パージ、選択的な水分除去などを検討しますが、水溶性成分を同時に失わないかも確認します。
加熱により分解、酸化、重合する成分や、脱着温度で放出しにくい難揮発性成分には適さない場合があります。試料から直接成分を発生させる場合は、単なる脱着なのか、熱抽出・熱分解なのかを区別します。元の試料に存在した成分を測るのか、加熱生成物を評価するのかで結果の意味が変わります。
環境大気、室内空気、工場内の作業環境に含まれるVOCの測定に利用されます。短時間の能動採取は工程や作業ごとの変化を捉えやすく、受動採取は一定期間の平均的な曝露状況を把握する用途に向きます。公定法や規格がある場合は、指定された吸着剤、採取流量、採取時間、保存方法に合わせます。
試験チャンバーやサンプリングバッグで材料から発生したガスを採取し、TD-GC/MSで成分を分析します。建材、樹脂、接着剤、塗料、自動車内装、電子部品などの比較や、異常ロットの原因調査に用いられます。
食品、飲料、容器包装、化粧品、日用品から発生する揮発成分を吸着管へ捕集し、香気プロファイルや異臭原因を調べます。GC-MSで成分候補を検索し、必要に応じて標準物質、保持指標、官能評価を組み合わせます。
においの評価との関係は悪臭・ニオイ成分の分析手法で整理しています。
対応する熱脱着装置では、連続した空気試料の採取・分析や、試料管の自動交換を構成できます。発生源の変化を追う用途では、測定サイクル、流路の切り替え、ブランク、校正、遠隔監視の方法を確認します。
標準試料を用いた応答の管理は検量線と校正確認を参照し、捕集量・脱着条件を含めた同じ手順で行います。
メーカー公式HPで2026年9月4日時点に現行製品として確認できる熱脱着装置のうち、GC・GC-MSへ接続できる3製品を調査しました。多数の試料管の自動処理、国産GC-MSとの統合、多様な試料導入への拡張という異なる目的から選定しています。
TD-30シリーズは、吸着管へ捕集したVOCなどを加熱脱着してGC-MSへ導入する装置です。島津製作所のGC-MSと組み合わせ、試料管の自動処理を含むTD-GC/MSシステムを構成したい場合に候補になります。
| 装置区分 | 加熱脱着装置 |
|---|---|
| 主な試料 | 吸着管に捕集した大気・放散ガス中成分 |
| 主な構成 | 試料管の一次脱着、トラップ、二次脱着 |
| 確認項目 | 搭載本数、再捕集、内部標準、接続GC-MS |
TD100-xrは、吸着管を自動処理する熱脱着装置です。多数の試料管を扱う大気・室内空気・材料放散分析で、試料管のシーケンス、再捕集、品質管理を含めた運用を検討する場合の候補です。
| 装置区分 | 自動熱脱着装置 |
|---|---|
| 主な用途 | 吸着管を用いたVOC・SVOC分析 |
| 選定の観点 | 多数試料の自動処理、再捕集、流路管理 |
| 確認項目 | 対応管、搭載数、接続GC、国内サポート |
TDU 2は、吸着管の熱脱着に加え、直接熱抽出、ヘッドスペースやSPMEの導入にも利用できる熱脱着ユニットです。MPSと組み合わせた自動化や、複数の試料導入法を一つのシステムで扱いたい研究・開発用途で候補になります。
| 装置区分 | 熱脱着ユニット |
|---|---|
| 対応する導入 | 熱脱着、直接熱抽出、HS・SPME導入 |
| 自動化 | MPSとの組み合わせを検討可能 |
| 確認項目 | 冷却注入口、オプション、接続GC、制御ソフト |
主要メーカーの製品を幅広く比較調査したうえで、選定基準を診断チャートに落とし込みました。いくつかの質問に答えるだけで、自社に合った製品にたどり着けます。
※2025年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
装置を比較する前に、対象成分の沸点・極性・予想濃度、試料の湿度、必要な定量下限を整理します。複数の吸着剤を組み合わせる場合は、軽い成分を保持できるか、高沸点成分を完全に脱着できるかを同時に確認します。
必要な試料管本数、夜間運転、再分析、内部標準の添加、リークチェック、流路洗浄、ブランク管理を比較します。高濃度試料の後に低濃度試料を測る場合は、試料管だけでなくトラップとトランスファーラインのキャリーオーバーも評価します。
熱脱着装置、GC・GC-MS、カラム、データ処理ソフトを一つの分析系としてデモ測定します。添加回収、破過、再現性、定量下限、ブランク、分析サイクルを確認し、採用する公定法・JIS・ISOなどへの適用可否は最新の規格本文とメーカー資料で照合します。
同じTD-GC/MSでも、吸着剤と捕集条件が違えば測定できる成分範囲は変わります。装置仕様だけでなく、採取から保存、脱着、解析までを含む運用手順で選びましょう。
ガスクロマトグラフは、使用シーンによって適した機器が大きく異なります。
使用する環境が違えば必要な検出器・設置条件・運用方法も変わるため、自社に合った製品を選ぶには「どこで・何を測定したいか」を起点に検討することが大切です。
当メディアは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つの使用シーン別におすすめメーカー・製品をまとめています。
ガスクロマトグラフの使用シーンは「現場での連続計測」「ラボでの成分特定」「製造ラインへの組み込み」の3つに大きく分かれます。
それぞれ設置条件・必要な精度・運用方法が根本的に異なります。このページでは使用環境ごとに適した装置と選定ポイントを分けて解説します。
引用元:ボールウェーブ公式HP
(https://www.ballwave.jp/products/)
| 対応ガス・成分 | VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 1.9kg |
| サイズ | 133×88×174mm |
引用元:アジレント・テクノロジー公式HP
(https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1005473)
| 対応ガス・成分 | 硫黄化合物・窒素化合物・VOC・残留溶媒・香気成分 |
|---|---|
| 重量 | 公式HPに記載なし |
| サイズ | 580×510×490mm |
引用元:横河電機公式HP
(https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-and-services/measurement/analyzers/gas-analyzers/process-gas-chromatographs/process-gas-chromatograph-gc8000/#詳細)
| 対応ガス・成分 | 天然ガス・石油精製・石油化学 |
|---|---|
| 重量 | 約100~200kg |
| サイズ | 公式HPに記載なし |
※2026年4月6日時点、Googleで「ガスクロマトグラフ メーカー」検索し公式HPが確認できた18社を対象に、各社最大2製品(複数製品の掲載がない場合は1製品)を調査。
再現性の記載があった製品の中での比較。